シネマ執事

ティッシュみたいだね 映画って

2021

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蔵原惟繕監督 「憎いあンちくしょう」 1962 レビュー ネタバレあり

蔵原惟繕監督 「憎いあンちくしょう」 1962 レビュー ネタバレあり

浅丘ルリ子の最高傑作  蔵原惟繕のシャープなカッティングも素晴らしい。石原裕次郎の男っぷりも素晴らしい。しかし、この映画の到達点は蔵原や石原の度量ではない。浅丘ルリ子という史上最高の女優が誕生する輝かしい瞬間が、奇跡的というほかないほど鮮やかに刻まれているのだ。  石原裕次郎は、マルチタレントを演じる。当時勃興していた...
増村保造監督 「卍」 1964 レビュー ネタバレあり

増村保造監督 「卍」 1964 レビュー ネタバレあり

格差社会  男は、格差社会に生きていない。もちろん人には優劣がある。頭の良さ、容姿、異性を惹きつける力、運動神経、収入。後天的な努力では逆転できない要素も多い。しかし男は、格差を露呈しない。格差は暗黙に了解され、持てる者は謙虚に振舞う。長幼の序は、格差をあからさまにしないための、知恵だ。しかし、女は違う。美しい女のセク...
sasameyuki

市川崑監督 「細雪」 1983 レビュー ネタバレあり

沈みゆく関西  古代から日本の中心であった関西は、存在感を落とし続けている。現在の関西人はみんな、お笑い芸人のテンプレートを演じている。圧倒的なクオリティを誇った芸能だが、松本人志という異端を大御所化したせいで、停滞している。  「細雪」は昭和初期の阪神モダニズムを描いている。旧い問屋の姉妹が、上本町の本家と芦屋の分家...
入江悠監督 「22年目の告白 -私が殺人犯です-」2017 レビュー ネタバレあり

入江悠監督 「22年目の告白 -私が殺人犯です-」2017 レビュー ネタバレあり

仲村トオルのいかがわしさ  胡散臭いとは思っていた。例えば「接吻(2008)」。小池栄子の圧倒的な狂気と比して、渋く映画を支える名助演のように見える弁護士役だが、どこか嘘くさい。まず、声だ。誠実な男の渋く低い声。そんなものが仲村トオルに似合う筈がない。「22年目の告白」では、報道番組のキャスターを演じている。社会の矛盾...
黒い画集 寒流

鈴木英夫監督 「黒い画集 第二話 寒流」 1961 レビュー ネタバレあり

戦前フォーマットの喪失  戦争に敗けたんだから仕方がない。皇統が継続できただけでも有難い。しかし、ここまで木端微塵に砕かれるとは。「黒い画集 第二話 寒流」を観ると、戦前から継続するフォーマットが、1961年にはまだ残存していたことを思い知らされる。  中堅銀行員の池部良は、常務の平田昭彦に目をかけられ、池袋支店長に抜...
六月の蛇

塚本晋也監督 「六月の蛇」 2002 レビュー ネタバレあり

カルトなヒロイン  強い雨が降りしきるなか、黒沢あすかが、乱れる。白黒ならぬ、「青白」とでも呼ぼうか。モノクロームのフィルムが青い陰影を形どる。無機質なデザイナーズマンションで自慰に耽る黒沢。残切りとでもいうか、無造作に切ったショートカット、スレンダーな肢体。塚本晋也のカルトな美意識の世界に、中性的な黒沢が棲息している...
和田嘉訓監督 「コント55号 世紀の大弱点」 1968 レビュー

和田嘉訓監督 「コント55号 世紀の大弱点」 1968 レビュー

日本映画爛熟の境地  観客数のピークは1958年。敗戦によってリセットされた社会は、ハングリーな活気を呈した。1960年代に突入すると、社会の安定度は戦前の水準を超える。加速する成長のベースになったのは、一体感だ。みな同じことを考え、同じ方法論で行動した。  一体感を創出したのは、テレビだ。映画は、テレビ的な親近感をプ...
冷たい熱帯魚

園子温監督 「冷たい熱帯魚」 2010 レビュー

原初の快楽  「ボディーを透明にする」と、でんでんは表現する。死体を細かく切り刻んで焼却し、残滓を川へ流す行為だ。殺人の動機は、快楽だ。欲望を満たす快楽、快楽の妨げになる人間を殺す快楽。殺人と性行為には、種の生存本能としての快楽が潜んでいる。本来、快楽を味わうことができるのは、強い人間だけだ。強い人間だけが、強い遺伝子...
市川崑監督 「おとうと」 1960 レビュー

市川崑監督 「おとうと」 1960 レビュー

日本映画の黄金時代 映画好きは多いが、日本映画が好きな人は少ない。ましてや昭和三十年代の邦画となると、マニアックなジャンルかもしれない。しかし、私は断言する。1956年~1962年の日本映画は、全世界の映画史上最高の黄金時代だ。特に1960年は、新旧の映画監督が意欲作を多発し、大いなる活況を呈した年だ。 東宝には、天皇...
塚本晋也監督 「双生児」 1999 レビュー

塚本晋也監督 「双生児」 1999 レビュー

双生児の流離譚  江戸川乱歩の原作は、1924年に発表されている。舞台となる大徳寺医院は、医院と家屋が同棟にある造りの日本家屋だ。西洋医学の治療を施す医院と、日本建築の普遍性を感じさせる居間や寝室。折衷こそが日本的美の精髄ならば、大正時代を描いた映画は、自ずと格調高くなる。パンキッシュな塚本だからこそ、この王道を丹念に...

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