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ティッシュみたいだね 映画って

英 勉監督 「ハンサム☆スーツ」 2008 レビュー ネタバレあり

英 勉監督 「ハンサム☆スーツ」 2008 レビュー ネタバレあり

あらすじ


亡き母親が遺した定食屋「こころ屋」を経営する男・大木琢郎は、料理上手で誰にでも分け隔てなく接する心優しい性格なのにデブでブサイクな容姿から、生まれてこのかた女性と交際どころかモテたことすらない。美人なアルバイト店員・星野寛子に恋をした彼は思い切って告白するも、あっさりフラれてしまった上に、彼女はこころ屋を辞めてしまう。
そんなある日、友人の結婚式に着て行くスーツを買うために紳士服店を訪れた琢郎は、店長・白木の勧めで着るだけでハンサムになれるスーツ、「ハンサムスーツ」を手に入れる。それを着ると、琢郎は見事なまでにハンサムな男・光山杏仁に変身。街を歩けば、女性にはモテモテ、モデルにスカウトされて瞬く間に大人気と、幸せな人生を手に入れた様に思えた。杏仁の姿で寛子に出会った彼は再び告白するが、なぜかまたもやフラれてしまう。一方、琢郎としての私生活では、寛子の後釜としてやってきた前向きで仕事のできる橋野本江のことがなぜか気になり始める。
そんな中、ハンサムスーツはお湯に濡れるとシワになってしまう事が発覚。再び、紳士服店を訪れた琢郎は、お湯に濡れても大丈夫だが、それと引き換えに二度と元には戻れなくなる「パーフェクト・スーツ」を勧められる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%A0%E2%98%85%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%84

美人は3日で飽きる?


 「美人は3日で飽きる」という俗説は嘘だ。3か月経っても、3年経っても、美しい女は美しい。むしろ長く付き合うと、美しさのバリエーションをたっぷりと堪能できる。冬の寒さにこわばった顔や、コート姿の女らしい腰つき。春に華やぐ美貌と、薄着で軽やかに跳ねる股体。ビーチでのセクシーな水着姿。そして桑田佳祐の至言、「秋が恋をせつなくする」。

 「ハンサム☆スーツ」の美人役、北川景子は当時23歳。愛くるしい笑顔だけでなく、困った表情も可憐だ。谷原章介にナンパされたときの怒った顔は、圧倒的に魅力的だった。『女性が選ぶ「なりたい顔」ランキング』常連として同性にも強く支持され、32歳となった現在、更に大人の美しさを熟成させている。

ウェルメイドなコメディー


 「ハンサム☆スーツ」は、不細工な容姿の食堂店主、塚地武雅が、「ハンサム☆スーツ」によってハンサムな谷原章介に化けたことから起こるドタバタを愉快に描きながら、やがて「人間は見た目よりも中身」という「お約束」へ軽やかに着地させる、ウェルメイドなコメディー映画だ。

 不細工に生まれたことで人生を損していると思っている塚地は、「洋服の青山」の卓越したマーケティング力にて、モニターユーザに選ばれる。決して本人が探し望んだわけではないのだが、店長の中条きよし(ハンサム時)/温水洋一(不細工時)の強引な営業力により、「ハンサム☆スーツ」を試着し、谷原のルックスを手に入れる。

 その後の谷原の演技が素晴らしい。谷原の内面は当然、塚地なのだが、過度に塚地っぽい演技をすることはなく、能天気で少しアホなハンサムを好演している。時折見せる塚地っぽさの刻印は、分かりやすく観客に提示されるが、このあたりの「お約束」のセンスには英勉監督の確かな技量を感じさせる。

他人の幸福見つけるゲーム


 北川景子の「ブ☆スーツ」による変装である大島美幸が塚地に提案する「他人の幸福見つけるゲーム」が素晴らしい。
 初々しい高校生のカップル、首尾よく商談を進められた営業マン、まだ見ぬ我が子の誕生を夢見る妊婦、美味しそうにたい焼きをパクつく中学生、エロビデオをレンタルして家に帰るのが楽しみな若者。
 人生に影響を与えるほどの大きな幸福だけでなく、人は日常のなかでも小さな幸福を見つけている。ときには倫理に反する愉しみもある。幸福の質や多寡は人と比較すべきものではなく、自分自身で自然に見つけて享受すればいい。そして、他人の幸福を見て自分の楽しみだと考えることも、日常の小さな幸福の一つとなりうる。

 文章にすると如何にも堅くなってしまうが、光あふれる平和な公園で、「他人の幸福見つけるゲーム」に興じる二人の微笑ましい姿は、理屈なく素晴らしく、忘れられない映画的名シーンとなった。決して美しくはないが。

登場人物みんないいひと


 そう考えると、主役の二人を取り巻く登場人物たちは、それぞれの立場で自分の幸福を見つけている。ブラザートムは、塚地の食堂を支えることに生きがいを感じている。常連客たちは、塚地の美味しい料理と人となりを愛している。芸能プロダクション社長の伊武雅刀は、谷原という逸材を発見して狂喜するし、トップモデルの佐田真由美は谷原という未知のタイプとの遭遇を愉しむ。

 映画は、食堂の経営という堅実な実業にたっぷりと愛着を注ぐが、モデル業界という虚業を少し揶揄しながらも、決して否定することなく、愉しい世界として描いている。そう意味で、この映画は、狭い世界で充足している人に、未知の世界を体験してみることを提案しているようにも思える。若き日の吉田拓郎が「こうき心」でストレートに歌ったように。

 わが国において、自由と民主主義は完全に達成されている。それでも当然のこととして残存するのは、価値の優劣だ。運動神経のない人がイチローになることはできないし、才能がなければ人の心を揺さぶる音楽を作ることはできない。人間の才能や能力の多寡は決して公平ではなく、ごく当たり前のこととして、優劣は存在する。

 しかし、なにか自分の得意なもの、好きなものを見つけて幸福になることは、誰にでもできる。「高望み」はチャンスがあればチャレンジすべきだが、「高望み」しなくても別の選択肢はある。障害を持つ池内博之の登場がそのことをさりげなく象徴している。

反ポリティカルコレクトネス


英監督の意気を感じたのは、「不細工」「ブス」「デブ」といった容姿の醜さを表す言葉を多用していることである。長く日本のマスコミは、言葉狩りを行ってきた。前後の文脈や表現の本質を判断することなく、抗議を受けそうな言葉の使用を機械的に自粛してきたのだ。
物事に価値が存在するということは、「優劣」が存在するということだ。優れたものがあれば、必ず劣ったものも存在する。劣った存在を容赦なく痛めつける行為は、いうまでなく卑劣だが、劣った存在を「なかったもの」として隠蔽するのも、愚劣である。

アメリカでは、ポリティカルコレクトネス(PC)が、愚かな顛末を呈しつつある。LGBTさえ、差別的だとする声も上がっている。LGBT以外にも性的マイノリティを抱えた人々は存在するからだ。男性らしさ、女性らしさを称揚することは忌避しなければならないし、アフリカンアメリカンやネイティブアメリカンを揶揄することはタブーとなりつつある。

昨今では、「オリンピック」という言葉さえ差別用語となりつつある。公的には必ず「オリンピック/パラリンピック」と称しなければならず、企業のCMは健常者のアスリートよりも車椅子の選手を多く映さなければならない。

しかし、「ハンサム☆スーツ」はそんな狭量主義に陥ることはない。「人間は見た目よりも中身」ということを穏やかに主張しながらも、外面の美しさを称賛することを否定しているわけではない。何しろこれは、「映画」というエンタテイメントなのだ。美しいものをより美しく描かなければ、魂を失ってしまう。

やっぱり、美人はトクだね


映画的な終盤の種明かしとして、大島美幸は、「ブ☆スーツ」を脱ぎ捨て、自分が北川景子であることを塚地に明かす。塚地に好意を持つ北川は、自分の容姿ではなく性格を愛してほしいために大島に化けていたのだが、塚地との恋が成就しそうになったので、仮装が不要になったということだ。

谷原ではなく、塚地として生きていくことを決断し、大島の暖かいまごころを愛し始めていた塚地だが、本音ではこう思ったに違いない。「背伸びせず、普段着のままで愛し合うことができそうな女が現れたと思ったら、実は美人だったなんて、一挙両得じゃん。なんてラッキーなんだ。」

そこまでの策士とは思えない北川は、自分の容姿を取り外したうえで意中の男との信頼関係を結ぼうとしたのだが、その作戦の成功は、自らの美貌によって更に強固なものとなったのだ。英監督は、ルックスの美しさも幸福の一つとして十分に享受していいのだ、とおおらかに考えているのだろう。PCは単なる「嫉妬」であり、自由な精神が目指すべき、ダイバーシティの本質から最もかけ離れているのだ。

もし、塚地が北川に飽きる日が来るとすれば、その美貌にではなく、大島的な性格に対してだろう。穏やかに自分を愛してくれる女性は、献身的な揺るぎなさを持っているだけに、その揺るぎなさが、いずれ疎ましくなるときが来る。

そのとき、彼らをつなぎとめるのは、成熟した北川の美貌の魅力であるかもしれない。

ABOUT THE AUTHOR

佐々木 隆行
佐々木隆行(ささきたかゆき)

1969年生まれ。広島県出身。青山学院大学中退。IT企業勤務。
最初の映画体験は「東映まんがまつり」。仮面ライダーがヒーローだった。ある年、今回は「東宝チャンピオンまつり」に行こうと一旦は決意したものの、広島宝塚へ歩く途中に建っていた広島東映「東映まんがまつり」の楽し気な看板を裏切ることが出来なかったことを痛切に覚えている。

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