シネマ執事

ティッシュみたいだね 映画って

映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』レビュー ネタバレあり

映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』レビュー ネタバレあり

原作:桜坂洋

監督:ダグ・リーマン

主演:トム・クルーズ

 

ネタバレ度:★★☆☆☆

 

概要

突如人類が戦うことになった『ギタイ』と呼ばれる異星からの侵略者。

人類は瞬く間に追い詰められ、大規模な反攻作戦に打って出る。

メディア担当官のはずだったケイジは、前線での広報活動の命令を拒否したため、少佐の階級を剥奪され、二等兵として戦場へ送り込まれてしまう。

そしてあっさり死亡。

しかし、辛うじて道連れにした大型のギタイの血を浴びたことで、戦闘前日に時間をループする能力を手に入れてしまう。

かつて同じ能力を持っていたというリタ・ヴラタスキと出会い、彼女のスパルタ教育を受けながら、一流の戦士へと成長していく。

 

 

オワタ式レベル上げが面白すぎる

『生きる 死ぬ 目覚める』

このキャッチコピーが物語るとおり、主人公はゲームのように何度も同じシチュエーションに挑むことで、圧倒的不利な戦況を覆すために戦います。

原作終盤では「もう目をつぶってでも攻撃を避けられるぜ(フッ)」などと豪語しているのですが、本作ではそこまでの超人にはなりません。

とにかく超覚えゲー。初めてのシチュエーションではあっという間にやられてしまいます。

ギタイはもとより、トラックに轢かれたり輸送機の下敷きになったりするのは日常茶飯事です。スペランカーかな?

なにせ、戦場の牝犬と恐れられた元ループ能力者のリタですら、初対面時は不意に背後を撃たれて死体が吹き飛んできたくらいです。

ド素人のケイジなどさもありなん。

普通の戦闘経験どころか、ロクな訓練経験すらない口だけ達者な、なんちゃって軍人なのですから。

『ミッション・インポッシブル』などでの華麗なアクションをしていたのはどこへやら。

そう、あのトム・クルーズが、戦場でアタフタしては犬死していくヘタレ兵士を演じているのです(でも本人はノリノリだったとか)。

原作では三度目の人生で逃亡を図るのですが、こちらではムキムキのおじさんたちにガッツリ確保されてしまっているので、それすら叶わず毎度戦場に放り込まれます。かわいそう。

ループものは登場人物の扱いがどんどん適当になっていくものですが、主人公がここまで雑に扱われるのは初めて見ました。誰だこの物語にコメディ要素ブチ込んだのは

とはいえ、原作では敵側もループを使ってケイジをあの手この手で優先的に殺しに来るため、まだ易しいのかもしれません。

特に中盤からは経験者のリタによる英才教育が始まります。バンバン死にます。

ループというゲーム的なギミックを、原作ではひたすら経験値稼ぎをする勇者のような視点で描いていましたが、本作では激ムズのアクションゲームを必死のトライアンドエラーでクリアを目指す、プレイヤー的な視点で描いています。

リタと二人で攻略ルートを変える度、地図を広げて歩数や秒数まで綿密にディスカッションしているのが、変態的な無理ゲーマーっぽくて何だか微笑ましいです。

いや本人たちは超真剣なんですけどね。

 

 

S度の増したヒロイン

原作は何だかんだラノベなので、リタは一見するとまるで子犬のような華奢な女性として描かれています。

しかしそこはハリウッド。

『そんな筋肉で戦えるわけねえだろ。物理法則ナメてんのか?』と、日本の萌えと巨大武器ガン否定するマッチョ文化です。

セクシーながら、しっかり鍛えたエミリー・ブラントがリタを演じます。

原作では「君が死んだらバッテリーをもらうから、それまでは傍にいてあげるよ」となかなかドライな情けをかけてくれるのですが、本作では身を挺して助けたのに無言でかっぱらっていきます。血も涙もありません。

さらに、『大量出血で大型ギタイの血が抜けると、ループ能力を失ってしまう』という事実が判明してからは、さらにケイジの命が軽くなっていきます。

輸血などされようものならそれで終わりのため、重症を負ったらリタさんは即射殺します。

「ちょ、待っ……まだやれるから! 爪先は動くからぁ!」とケイジが叫んでも、脳天ブチ抜いて強制リセット。

何度ループし直してもどの世界線でも一切手加減はしてくれません。

原作では同類としてまともに交流を始めるのが中盤で、すでに200回近くループしてレベル上げしている段階でした。

それが本作ではまだまだヒヨッコの段階でリタが状況を察するため、このような展開に改変されたのでしょう。

下手をすると、敵よりもリタに殺されてる回数の方が多いんじゃないかという気さえします。

それでもリプリーやサラ・コナーとかと比べたらだいぶ真っ当にヒロインしてるとは思うんですけどね。

脳漿ぶち撒ける系ヒロインとは、ハリウッドもなかなかやりおる。

いわゆる師匠ポジションではあるのですが、何だかんだでループ能力というアドバンテージを持っているのはケイジなので、成長するにつれて次第に立場は逆転。勇敢に彼女をリードしていくようになります。

恋愛では王道の展開ですね。

しかし、いかんせんリタの方は毎回好感度がリセットされるので、なかなか距離は縮まりません。

その辺の恋愛要素も邪魔になることなくよりメリハリを強めています。

ケイジのナンパ能力までもがどんどん向上していく……!

 

 

ハリウッド的胸熱リメイク

当時は『涼宮ハルヒの憂鬱』などがヒットし、ライトノベルが一般的にも認知度を高め始めた時期でした。

そして一気に業界は学園萌えハーレムへと爆進していくことになり、『ジュブナイル小説』が『ライトノベル』に変貌していった過渡期と言えます。

そんな変化の時代だったため、原作のようなあまり萌え要素のないハードSFもまだ一定の地位を保持していました。

一昔前の戦争映画のような雄達の下品な会話、絶望感漂う世界観など、今のライトノベルではすっかり売れ線ではなくなってしまったスタイルで描かれています。

主人公がやたら感傷的でキザったらしいのはあんまり変わりませんが。

中二病の魂は今も脈々と受け継がれています。

 

しかし本作では、そういったジュブナイル的ノリや設定が大幅にハリウッドナイズドされています。

主人公はスペランカー並みに死ぬし、ヘタレだし、ヒロインは鬼です。

陰キャが酔い痴れた重厚で陰鬱なストーリーが、陽キャ向けのテイストに魔改造されることとなりました。

小畑健による漫画版では、終盤はイケメンと美少女がイチャイチャしてるだけに見えましたからね(笑)

まあケイジとリタ、どちらかが死ななければならないという鬼畜展開が待っていたため、余計キラキラに描かれているでしょう。それはそれでエモかったです。

原作者は『どうせリセットされるんだからゲームみたいにバンバン死に覚えゲーしてけばいいじゃん』という発想を嫌い、この展開にしたとのこと。

安全なプレイヤーとしてではなく、戦場で代償を支払うキャラクターとしての視点を盛り込みたかったとか。

古き良きハードSFの美学です。

しかしやっぱりそれは一般にはウケない。でも軽過ぎにはしたくない。

その二律背反をクリアするため、ラストでは実にアメリカンな選択をケイジはすることとなります。

ああ、これぞハリウッド。

『とりあえず愛と勇気と友情で爆発させておけば何とかなるさ!』という清々しい脳筋ヒロイズムでした。

実写化の経緯として、英訳版の試し刷りが映画会社のプロディーサーの目に止まり、トントン拍子に決まったそうです。

そして叩き出したるは興行収入およそ37億ドル。

初めて日本のライトノベルがハリウッド映画化されたどころか、名だたる名作にも引けを取らない大ヒットです。

マジョリティ文化すげえ……

辛口な批評で有名だという評価サイト、Rotten Tomatoesでも91%という高評価を得ているほど。

なんとすでに続編の制作も進行中だとか。

前日譚かつ斬新なストーリーになるという噂ですが、はてさて、次はトム・クルーズがいったいどんなヒドい死に方をさせられるのか、楽しみで仕方ありません。

操作キャラクターよりも、プレイヤーよりも、横で見ている観客こそが最強なのです(高笑いを上げながら)。

ABOUT THE AUTHOR

ラダ
【プロフィール】
筆者:ラダ
ライアーゲームとTRPG大好きっ子。
自分でオリジナルのゲームやシナリオを作っては、ゲームマスターとして高みから見物するのが趣味。
プレイヤーとしてはポンコツ。
最近リアルでも秋葉原にてライアーゲームを主催し始めたものの、人が集まらないのが悩みドコロ。
興味ある人は連絡してマジで↓
Twitterアカウント『@radayarou

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


Other

More
Return Top