シネマ執事

ティッシュみたいだね 映画って

“攻殻機動隊”のハリウッド実写版『GHOST IN THE SHELL』レビュー (ネタバレあり)

“攻殻機動隊”のハリウッド実写版『GHOST IN THE SHELL』レビュー (ネタバレあり)

原作者(漫画):士郎正宗
リメイク元(劇場アニメ版):押井守
TVアニメ:神山健治

ネタバレ度★★★☆☆

あなたのその記憶――本物ですか?
その身体も、知識も、感情も、作られたものではないと証明できますか……?
そんなインテリオタクがマウントしてくる系テーマを具現化しちゃった作品、それが『GHOST IN THE SHELL(ゴースト・イン・ザ・シェル)』だ!!

概要

原作は、士郎正宗氏のコミック(1991年)。
それをアニメ映画化した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)を、さらに現代のハリウッドで実写リメイクしたものとなります。
また、TVシリーズ版第2シリーズである『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 2nd GIG』の要素をいい具合にブレンドした一品になっております。
ややこしいっ!
とはいえ、元々漫画版もTVアニメ版も劇場アニメ版も全てパラレルワールドの物語として扱われているため、これもまた1つの新しい攻殻機動隊と考えてもらえればいいでしょう。

原作、リメイク元との相違点

見どころは、ストーリーの縦軸として『主人公・草薙素子とは何者なのか?』を据えられているところです。
(本作ではミラ・キリアン少佐。以下、少佐と表記します)
リメイク元となった『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』は、テーマ性を優先するあまり、なんかよく分からん強くて綺麗なねーちゃんが、よくわからん内に敵と共鳴して旅立っちゃう、というお話だったんですよねぇ。

※何を言っているのかわからない人は観よう。本当にそんな感じだから。

「ゴースト(=魂)とは何か?」「人間以外の知的存在もそれを持つのか?」――
当時はまだそういう壮大な世界観やテーマ性が優先される、大塚英志の言うところの物語消費という作品の作り方、楽しみ方が幅を効かせていた時代だったのです。
特に元々SFはそういう風土で醸成されてきたものですので。
裏を返せば、小難しいことを言いたいがために、キャラクターの心理描写がおざなりにされる面があったのです。

だからアニメ映画の方では、すごいんだけどイマイチ主人公に感情移入できない部分がありました。
まあ、ミステリアスなヒロインのキャラには合っているので、それもまた一興ではあるのですが。
エヴァとかはミステリアスなんてレベルじゃねーですし。

翻って、実写版では少佐が捜査の中、自身の正体や過去に直面していくことになります。
もちろんそれは攻殻機動隊でお馴染みの、政治的な社会悪へと繋がっていくので、主人公が主人公として、ドラマの中核になっているのです。

おまけに、ハリウッド映画らしい陰謀サスペンス風味も存分に添加されています。ブラボー!!
親子関係を巡る登場人物たちとのやりとりも、主人公の人間味やドラマ性をより深めています。
最終的にリメイク元とは真逆の、とても人間的な答えにたどり着くのも、両方観ていると趣深いです。これはSTAND ALONE COMPLEXシリーズの第3弾、『SOLID STATE SOCIETY』の影響が大きいと思われます。
リメイク元では消化不良気味だった巨大ロボット兵器とのバトルも、エンタメ的にカタルシスがあるようアレンジされていて、好感度高かったです。
個人的にはリメイク元を超えていました。

シンクロ率高すぎなキャラクターたち

役者は全員本家の風貌にかなりハイクオリティに寄せられています。特に主役であるスカーレット・ヨハンソンのハマりっぷりがヤバいです。
日本のコスプレじみた実写映画化とは雲泥の差です。
しかも、画像検索したら本来は黒髪ではなくブロンドの美人さんで、全然雰囲気違うのです。
メイクってスゲー!!

また、北野たけしが主人公たちの所属する公安9課の荒巻課長役としていい味出してます。
というか、優遇されすぎ。
本家よりカッコいいやんけ(笑)
アニメでは指揮力や交渉能力の高さが目立つ印象ですが、こちらでは抱かれたい男ナンバーワンのハードボイルドぶりです。

最後の最後にもオイシイところ持っていっちゃいます。
一応警察官でその行動はどうなん?という点には引っかかりましたけど。
明らかに政治絡みなのに、背景洗い出さなくていいのん……?
とはいえ、作品全体を通してもツッコミ入れたのはそれくらいだったので、許容範囲内でしょう。
「とりあえず〇〇しようぜ!」というのが実にアメリカンらしいっちゃらしいです(笑)

手配犯として対峙するクゼの造詣も凝っています。

一言で言えば、リメイク元の『人形使い』と、テレビシリーズ『2nd GIG』の同名キャラとのハイブリッドです。
能力は人形使い、人物像はクゼとなっており、まさかこの2人を融合させてくるとは思いもよりませんでした。
本家で『草薙素子』の正体を解き明かす上で重要なクゼを核にリボーンしたことで、リメイク元では欠けていた人間ドラマを練り込むことが実現されています。

本家では元々深い関係であった素子とクゼに、バトーが横恋慕する形になってしまい、多くのファンを生温かい笑顔に包ませたのですが、本作では『以前の人生と、新しい人生でのパートナー』という対比構造に配置されていたように感じます。

バトーさん、よかったね!

また、吹き替え版だと声優陣が本家そのものなのもニクいです。
筆者は本来字幕派なのですが、当然、田中敦子氏のイケボ少佐や、大塚明夫氏の渋かわいいバトーで拝聴しました。
字幕版なんて観る気もしねぇ!!

映像表現

本家では電脳化や義体(サイボーグ)化などという超テクノロジーが発達している反面、妙に生活感あふれる街並みや住宅地が描かれているのが特徴です。
本作でもそこは踏襲されつつ、繁華街では巨大なホログラムのCMが流れていたりと、ブレードランナーなどを彷彿とさせるサイバーパンク的な背景が描写されています。
攻殻機動隊という作品をリスペクトしつつも、「これぞハリウッド!」という様を魅せつけてやろうといった気概が見受けられます。
いいぞ、もっとやれ。

マトリックスを作ったウォシャオスキー兄弟(今は性転換して、姉妹)が、製作前スタッフに攻殻機動隊のアニメを観せ「俺たちはこれを作るんだ!」と宣言したというのは有名な話です。
クールジャパンと持てはやされ、多くのクリエイターに影響を与えたことが窺えます。
そしてアクションにおいて、いくつかの映像表現がマトリックスから逆輸入されているのにもニヤリとします。
また、リメイク元から構図が丸ごと再現されているシーンもあり、ファンならそれだけでも一見の価値ありです。
少佐のセクシーでメスゴリラな光学迷彩のシーンは今見ても輝いています。

惜しむらくは……

BGMは割と普通といった印象で、川井憲次氏や菅野よう子氏の作曲であればなお良かったというのが、正直なところです。
あの民族音楽っぽい旋律や、ハイテンポなビートが流れれば、なおテンション上がったことでしょう。
彼らのハリウッドデビューを切に願います……!
スティーヴ・アオキ氏が川井憲次氏作曲の『謡Ⅲ~REINCARNATION』をリミックスし、本作とコラボした予告ダイジェスト動画がYou Tubeにアップされているので、それを観て溜飲を下げてください。

しかしまあ、もっと重大な欠点が本作にはあるのですよ。

タチコマたんが出なぁぁい!!

なして?! なしてあのキュートなクモ型ロボットが出ないのおおお!!?
バトーさんとの微笑ましいやり取りとか!
人工知能がゴーストを持てるかどうか問題とか!
あの子たちこそが最大の華だったのにぃぃい!!

かくなる上は、実写版の続編を期待するしかないでしょう。
信じる心、それこそが人間としての美徳であり、ファンとしての矜持なのです。
一度観れば、きっとあなたのゴーストもそう囁くことでしょう……

ABOUT THE AUTHOR

ラダ
【プロフィール】
筆者:ラダ
ライアーゲームとTRPG大好きっ子。
自分でオリジナルのゲームやシナリオを作っては、ゲームマスターとして高みから見物するのが趣味。
プレイヤーとしてはポンコツ。
最近リアルでも秋葉原にてライアーゲームを主催し始めたものの、人が集まらないのが悩みドコロ。
興味ある人は連絡してマジで↓
Twitterアカウント『@radayarou

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


Other

More
Return Top