シネマ執事

映画『ドント・ブリーズ』レビュー ネタバレあり

制作:サム・ライミ

ネタバレ度:★★★★☆

貧困から抜け出すため、高級住宅街でケチな盗みを繰り返していた三人の素人泥棒たち。

そこへ願ってもないビッグチャンスが。事故の賠償金で大金を手に入れた盲目の軍人が、孤独に暮らしているという。

しかし、そこで遭遇したのは、恐ろしい戦闘力と秘密を持ったスーパーおじいちゃんだった!

地獄の鬼ごっこが今始まる。

 

妙に親近感のわく登場人物たち

 

本作の主人公は、泥棒ではあるけれどどこにでもいそうなちょっとワルな若者たちです。

 

ですが観客側に立つ者たちであるため、その描き方はとても気を払われています。大それた犯罪を繰り返している割にはやけに小市民的で人間臭く、小悪党なのだけど憎めません。

 

番犬を殺さずに眠らせたり、警察に本気を出されないために少額の盗みに留めたり、三角関係でギスり過ぎないように牽制し合っていたりと、ごく普通の青年たちとして描かれています。

 

アレックスは父親が警備会社に勤めており、そこから得た情報や技術を利用して盗みを成功させてきた頭脳派の優男。

 

法の知識もありグループのストッパー役でもあり一番理性的ですが、ロッキーに横恋慕しているためリスクの高い仕事に手を出すこととなります。

 

ヒロインのロッキーは、マネーと付き合っている紅一点。幼い妹がおり、盗みで稼いだ金でひどい家庭環境から一緒に逃げ出すことを夢見ています。

 

男二人を手玉に取る悪女ポジションですが、根は優しく、ある意味一番酷い目に遭うので応援したくなってきます。

 

中の人のジェーン・レヴィはサム・ライミ作品で有名な『死霊のはらわた』のリメイク版にも出演しており、その時はなんかすごい役なので必見。

(※ちなみに、本作の監督であるフェデ・アルバレスはリメイク版『死霊のはらわた』で監督デビューしています)

そして一応彼らのリーダーの立場にいるのが、マネーです。

 

ガタイが良く、頭とガラの悪い見たまんまのチンピラです。ネーミングに悪意を感じますね(笑)

 

盗みに入った家で無意味に放尿したり花瓶を割ったりと、ナメプをせずにいられない少年の心を持った男。

 

SNSを使っていたらバイト先で冷蔵庫に入った写真とかアップして炎上しそうです。

 

こんなダメ男と美人なロッキーが付き合っているというのは、育ちの悪い女は強そうな男に惹かれるという理論の証明みたいでなんだか切ないですね。頑張れアレックス!

 

ちなみに彼は冒頭から順調に視聴者のヘイトを稼ぎ、案の定真っ先に人柱となるのでご心配なく。

 

そして本作の主役が、彼らを孤独に迎え撃つ盲目の老人です。

(エンドクレジットでも『Blind Man』としか表記されていません)

 

戦争により全盲になってしまっているのですが、退役軍人というだけあって強い強い。

 

見えないはずなのに銃を突き付けられながら平然と立ち向かい、睡眠ガスをものともせず、主人公たちを追い詰めていくハンターです。

 

強すぎて被害者なのにモンスターにしか見えなくなってくる恐ろしいお方。

 

娘を事故で失っており、そのショックから狂気に侵されています。

 

その所業はサイコそのものなのですが、彼の気持ちを思うと妙に納得できてしまう部分もあり、その人間臭さと怪物性とのバランスが見事です。

 

 

リアル軍人の恐怖

老人は漫画のように超人的な聴力や嗅覚があるわけではなく、すぐ目の前にいても息を殺しさえすれば全く気付きません。

また、特殊なトラップを張り巡らせているわけでもなく、軍人らしさが顕著なところといえば、近接格闘の強さと先手の取り方の上手さくらいです。

しかしそれがホラーゲームのモンスターじみた独特の恐怖感を与えてくれます。

 

銃を持った相手を瞬殺したことで、ちょっとマッチョな盲目のおじいちゃんから、得体の知れない怪物のように見えてきます。しかもうなり声以外全然喋らないのが超怖い。

 

もし少しでも物音を立てたら……

 

ホームグラウンドであることを活かし、的確に主人公たちの逃げ道を潰し、躊躇なく殺しに来る様は、まさに敵兵を追い詰めるソルジャーそのもの。

 

ごく普通の青年たちが軍人に追われるだけで、等身大の脅威としてのリアリティがすごい。やっぱり戦闘訓練を受けた人に喧嘩なんか売っちゃ駄目。

 

アレックスたちも一般人であるが故に、待ち伏せして倒そうなどとは考えず、ただただ老人の追跡から逃げ惑います。ジャック・バウアーが銃撃戦してる時などのような安心感は微塵もありません。ちょっと撃たれるだけで観ている方もハラハラしてしまいます。

 

銃って即死武器なんだ……という当然の事実をまざまざと突き付けてくれます。

 

もう警察に捕まった方がいいだろうと思わされれました(笑)

 

しかし、老人にも後ろ暗いものがあるため、911に通報などしてくれません。秘密を知った者たちを抹殺することに躍起です。

 

白眉なのが、彼らが逃げ惑う様子に白々しさが全く無いことです。

 

素人故のミスを連発するのですが、そりゃあこの状況なら焦ってポカするよね、というリアリティがあります。

 

スパイものなどで「いやいやいや、そんなあからさまに部屋漁ってたらバレるだろ……」とプロとは思えない雑な仕事に共感性羞恥を刺激されることが多々ある中、本作はそんな強引なハラハラ展開は徹底的に排除されていました。

 

その最たるものは、中盤。

 

老人はブレーカーを落とし、アレックスたちの行く手を阻みます。

 

そう、これで銃を握った軍人とのアドバンテージを失ってしまったのです。

 

暗視カメラの映像で一方的に狩られる側になった彼らに、因果応報だとかの感情を通り越してなんとか逃げ延びて欲しい、と思わせられてしまいました(笑)

 

 

老人の恐るべき秘密と執念

マネーは睡眠ガスを嗅がせ、いつものナメプで余裕ぶっこいていましたが、そこへ平然と老人が現れます。

 

最初は「おっと、ヤベーヤベー」とドッキリ番組のようなノリでやり過ごそうとしますが、気づかれた途端小物っぷりを全開にします。

 

慣れない銃を突き付け威嚇しますが、老いているとは思えない素早い動きと怪力であっさりねじ伏せられ、射殺されてしまいます。

 

すぐさま脱出経路も塞がれ、アレックスたちは金があると見てこじ開けた地下室へ逃げ込みます。

 

そこで見たものは、手錠で拘束された一人の女性でした。

 

彼女の正体は、なんと老人の娘を轢き殺してしまった犯人。

 

金の力で無罪放免を勝ち取った彼女を、老人は密かに監禁していたのでした。

 

『これは復讐か……?』と反射的に思いましたが、その目的はそんな生易しいものではない、超サイコなものでした。

 

昨今のフェミニズムの流れに配慮したのか、妙なところで紳士的なのが逆に怖いです。優れた創作とは縛りプレイによって生まれるという好例ですね。

 

アレックスは放っておいて逃げ出すことを提案しますが、同情したのか、ロッキーは彼女を連れて逃げ出すことに決めます。しかしこの行動が原因となり、老人を完全に戦闘モードにしてしまうのです。

 

 

決死の逃走劇、そして終わらない恐怖

辛くも地下から逃げ出しますが、そこに立ち塞がったのは老人の番犬でした。

 

こいつが超賢い。ロッキーだけしか入れない通風孔などまで追ってきます。

 

命からがら家から脱出しても、猟犬のようにどこまでも追跡してきます。

 

といっても、老人のようなモンスター感はないので、観ている側としては割と安心していられるシーンではありました(笑)

 

やはり一番恐ろしいのはサイコ軍人でした。

 

多大な犠牲を払いつつも、なんとか老人を倒し、目的を達したロッキー。

 

妹とともに念願の逃避行をしている中、ニュースで自分たちの犯行の顛末を知ることとなります。

 

この薄ら寒い結末には、まんまと逃げおおせた強盗犯である彼女も一生苦しめられることでしょう。

 

老人にも同情の余地があるとはいえ、恐ろしいサイコパスが新たな犠牲者を生む可能性を残してしまったのですから……

 

しかし、一つだけ確実に良かったこともあります。

 

それは、彼女のなにも知らない幼い妹が救われたこと。これに尽きるでしょう。

 

正直ロクでもない奴ばかりの物語でしたが、アレックスも、老人も、全ては歪んだ愛情を満たすための犯行で、だから感情移入できました。

 

愛を盾にしとけばたいてい何でも許されますからね。

 

やはり一番恐ろしいのは、そんな人間なのです(ドヤ顔)

 

……というか、まだ企画段階ながら、続編の構想があるとか。

 

この記事書くために調べてて一番怖かったよ! マジで終わってないじゃん! うひぃ~またあの恐怖に襲われちゃうぅ~(恍惚とした顔で)

 

ABOUT THE AUTHOR

ラダ
【プロフィール】
筆者:ラダ
ライアーゲームとTRPG大好きっ子。
自分でオリジナルのゲームやシナリオを作っては、ゲームマスターとして高みから見物するのが趣味。
プレイヤーとしてはポンコツ。
最近リアルでも秋葉原にてライアーゲームを主催し始めたものの、人が集まらないのが悩みドコロ。
興味ある人は連絡してマジで↓
Twitterアカウント『@radayarou

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